北郷 清治さん 【和楽 魚菜亭】
津波でお店を失い、ゼロからの再出発 – 2011/9/20
いわき市・久之浜漁港で水揚げされた新鮮な魚介類を使い、割烹料理のお店を開いていた北郷さん。海岸から目と鼻の先にあった店舗と自宅は、津波で跡形もなく失ってしまいました。
大切にしていたレシピや料理人の命と言える包丁まで、すべてが流されてしまい不安が残る中、夜明け市場でゼロからの再スタートを決意。これまでの経験を活かした魚の目利き力で、新鮮で美味しい魚を全国から仕入れ、2011年の年末に向けて新しい割烹料理店をオープンさせようとしています。
2011年9月13日、福島中央テレビの番組で北郷さんへのインタビューが放送されました。
以下は内容をテキストに起こしたものです。
JRいわき駅から徒歩3分ほどの場所にあります白銀小路に来ています。飲食店街として40年以上前から親しまれてきたこの通りは、1990年頃、バブル全盛期には30店舗ほどの店がありまして、毎晩大賑わいだったそうです。
しかし、長引く不況の影響でここ数年はシャッターを閉じる店が増え、すっかりシャッター街に姿を変えてしまいました。
通りがシャッター街に変わる要因としましては、建物のオーナーにとってお金がかかるということです。
古くなった建物を新しく貸し出そうとしても内装を綺麗にするのにお金がかかります。かといって解体するにもお金がかかり、なかなか手をつけられないという状況が多いということです。
その一方で、県内では浜通りを中心に、3月の震災・津波で店を失った店主がたくさんいます。
そういう方々がここに入居し、まとまって飲食店街をオープンさせる取り組み、夜明け市場プロジェクトを取材しました。
先週の土曜日、夜明け市場のオープンに向けて、通りの壁にペンキを塗る人たちの姿がありました。地元のボランティアの学生さんたちが中心です。
若者に混じってペンキを塗る北郷清治さん。いわき市久之浜で和食の店を経営していましたが、3月の震災・津波で店を失いました。
北郷さん「今日一日をどうしようということしか考えられないし、次のステップをどうしようかなど考えられなかった。」
以前のお店は、地元の魚を使った料理と、気さくな北郷さんの人柄に惹かれ、いわき市外からも多くのお客様が訪れる人気店でしたが、津波はすべてをさらって行きました。およそ30年務めていた会社をやめ、3年前にオープンしたばかりの大切なお店でした。
現在はいわき市内の仮設住宅で生活する北郷さん。津波発生時にはたまたま外出していて無事でしたが、収入は突然絶たれました。
北郷さん「食べていかなくちゃいけませんから。収入がないと生活できない。何もしなければ収入は得られない。働くなり、自分で店をはじめるなりしないと。」
しかし、新しく店をはじめるには、資金面はもちろん、場所探しや煩雑な手続きなど様々な障害があり、すぐにスタートできる状態ではありませんでした。北郷さんが夜明け市場のことを知ったのは7月のことでした。地元商工会がバックアップの元、被災した飲食店を一箇所に集めて復興のシンボルにしようという趣旨に魅力を感じました。
北郷さん「スムーズにお店を開店させられるというメリット、四倉町商工会もタイアップしているものですから、商工会の一員として手続きなど負担がへり、夜明け市場に入ってお店をやろうと決心がつきました。」
料理人の命でもある包丁もレシピも全て流されたという北郷さん。今は台所で料理をつくり、メニューづくりをする毎日です。
自分の店を再開させるために北郷さんは動き出しました。
このプロジェクトを一緒に進めているのが、東京でイベント運営や福島県産品の販売を手がける会社を起業した、いわき市出身の鈴木賢治さん。
ふるさとの復興のためにできることを考え、形にしたのが夜明け市場です。
鈴木さん「復興のために、何かを継続的にやらなければと考えました。みんなの復興したいという思いを集めることによって、県外にもPRできるし、飲食店の集積体だから食材も継続的に消費することもできます。」
被災者を対象にしていることもあり、ポイントは、各店舗の初期費用をいかに少なく抑え、入居しやすくするか、でした。店舗を借りて開業するには、数百万円の保証金や、敷金礼金が半年分から1年分必要など、開業への大きな負担になります。
これを鈴木さんの会社が管理人になることで、連帯保証人がいればゼロということに交渉しました。
築40年という古さがネックで借り手がつかなかった建物。しかし、店舗を失った人たちが求めていたものは、新しさではなく、少ない資金で早くスタートできる状態でした。
前の店が残したままの状態で引き渡しをすることで建物所有者の負担も少なく、家賃は、相場より1割ほど低めの5~15万円に抑えました。
一般的に1000万円近くかかるといわれる飲食店の開業を300万程度でも可能にしました。
鈴木さん「さらに、メリットは、集客の部分が一番。ポツンとオープンしても限界があると思います。」
一つの店ではなく複数の店が集まることによる集客力、さらにはターミナル駅の前という注目度の高い場所。客があつまり、楽しんでお金を落とすことが復興支援につながり、がんばる人たちの姿が県の内外に発信されることになります。
鈴木さん「飲食業はいろんな方が関わっているので、そこで売れて終わりではないんです。作っている人がいますし、運ぶ
人がいますし、ここが賑わうことで、いわき市、福島県内の一次産業の方まで少しでも支援ができればいいなと思っています。」
この夜明け市場という名前は、震災があって辛くても明けない夜はない。夜が明けるのはサンシャインいわき、からという強い想いがこめられています。
それでは、ここに出店される北郷さんにお話をうかがいます。
北郷さん、よろしくお願いします。
まずは、出店を前にした今のお気持ちを聞かせてください。
北郷さん「やっとここまで来たなーという嬉しい思いが半分です。複雑な想いとしては、まだまだ大変な人たちがたくさんいる中で、僕だけ喜んでいいのかなという想いはあります。すべての人が、自分の想いを貫いていければと思います。」
北郷さんが出店される予定のお店を見せてください。これから内装工事にはいるところですね。
北郷さん「左手に厨房とカウンター、半分に小上がりを用意してくつろげる場所を作りたいと思っています。メニューはこれから考えないといけないと思っています。前とは同じメニューにはなりません。」
夜明け市場に12月オープン予定です。
北郷さん、今日はありがとうございました。
いわき市から中継でお伝えしました。
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